奈良花街(元)にて 一服③

夏日です。予報通り。覚悟はしていました。暑い。でも、数字ほどに体感しません。汗がまとわりつく暑さではない。かといって秋にかけての残り火でもない。不思議な気候を感じます。お姉さんが灰皿を出してくれたのをもっけの幸いと、縁者が入店以来溜まっていた疑問を投げかけます。快く答えてくれます。

●元は置屋さんでした。最盛期には芸子さんを10人程抱えていたとか。当時、奈良の花街としては大店なのではと推察します。

●先代が喫茶店を始めたとのこと。奈良で一番古いらしい。これは、グルメ雑誌の受け売り。2〜3誌に紹介されていました。

●平成になって改装したとのこと。でもほとんどは昭和のまま。亡くなられたご主人と二人の手で回るようにしたサイズなんですって。

●飾られている絵は貰い物。だから、油や水彩や脈絡がありません。良い絵画が雑然と並んでいます。

●立派なステンドグラスが3枚あります。うち一枚は大工さんが間違えて裏表になっています。とのこと。

興が乗ってきたのかタバコを取り出します。ウインストンが愛煙品のようです。煙管ではありません。同年輩の女性客が入ってきました。アイスコーヒーを頼みます。ほどなくして会話に混じります。盛り上がります。お姉さんの身の上話までおよびます。この先は書きません。本当はコーヒー自慢のお店だったようです。女性客は実のところホットコーヒーが目当てで来たらしいんだけど、暑さに負けてアイスにしたのよ、と何気に話しました。こちらもアイスとビールです。それは、残念なことをした、と受けます。お姉さんの目が、キラリと光ります。百戦錬磨、女豹の瞳孔が輝きます。飲む?の、答えを聞く間もなく豆を挽きはじめました。深煎りです。いい薫り。ネルドリップです。なんと、抽出したコーヒーをポットに移し替え火を入れています。初めて見ました。このお店の豆でないとできない、言い換えれば風味を引き出す巧なんですって。さて、お味は。濃度はアメリカンに近い。好みです。一口目。うむっ。際立ちません。もちろん、薫り豊か、甘み、苦味ほどよくおいしいんだけど。二口目。変わりません。三口目、四口目も。ハッと気がつきました。カップをソーサに置けません。強烈も、インパクトもありません。ツンとすました味わいに、短い後ろ髪を引かれ、手から離れません。喫と茶ができずにいます。茶、だけになっています。

やっとのこと、煙管にシャグを詰め、一服。うまいっ。

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